敏腕演劇プロデューサーにして、シス・カンパニー社長である北村明子さん。
演劇関係者や演劇を志している人ならば、1度や2度は聞いたことのある名前だと思います。
写真はなんだか肖像権の問題とかがあるようなので、みなさんご自分で探してみていただけますか?
貼っておきますので‥
彼女は年間3本から4本の演劇をプロデュースし、そのどれも全て大ヒットさせる、まあ、ありきたりの言葉でいてばカリスマ・プロデューサーです。
私が知り合ったのは40ほど年前、お互い30代‥と言っても、北村さんは私より8歳年上のお姉さんですが、彼女が野田秀樹さんの「夢の遊眠社」内部組織の「えーほー商会」という、劇団員の外部出演の為のマネージメント部門代表をしていた頃です。
具体的には、夢の遊眠社に所属する「段田安則」さんに、こまつ座への出演をお願いした時です。
まだ30代でキャリア・ウーマン風の出立で、キリッとしていて、仕事バリバリやりそう‥って感じで、しかもかなりの美人です。
実際仕事は、バリバリの上にバリバリ、バリバリ、バリバリにやる人でした。
立ち姿や振る舞いは、さすが元女優だけあってとてもスマートでした。
出会ったころの「中島さん」がいつしか「中島ちゃん」になっていった40年のお付き合いの中で感じた、彼女のプロデュースの秘密を、内緒も含めて書いてみたいと思っております。
北村さんには黙っていてください。
稀代の天才プロデューサーであり、シス・カンパニー社長
元は野田秀樹氏の劇団夢の遊眠舎のマネージメント部門の代表だったのですが、その後、劇団の制作を手がけるようになり、劇団解散後「NODA MAP]という野田秀樹氏の劇団の制作をしつつ、遊眠社の俳優をマネージメントする「シス・カンパニー」の代表になりました。
しばらくは野田秀樹作品のプロデューサーをしていたのですが、ちょっと違う作家の戯曲なんかをやって、、、、、
そこからは大人の事情で、野田秀樹さんとは離れ「シス・カンパニーの社長」になり「シス・カンパニーのプロデューサー」として、数々の作品を企画・上演し‥これが次々に大ヒットして、大ヒットして、大ヒットして今も大ヒットし続けています。
どうして彼女の舞台は、あれほどまでに大ヒットするのか?
北村明子の舞台が大ヒットを続ける6つの秘密
彼女の手がけた作品は、公演の規模や作品の違いに関わらず、常に大ヒットしているのには、いくつかの秘密があります。
タイトルには「秘密」なんて書きましたが、これは少しカッコつけた表現でして、聞けば誰もが納得の理由です。
1、シス・カンパニーという強大な俳優軍団を持っています。
2、シスカンパニーを支える強力なマネージメント軍団とその戦略があります。
3、プロダクションの社長、そして演劇プロデューサーとして、多くの俳優マネージャーとの強力な関係性を作っています。
4、野田秀樹作品のプロデュース経験で得た、観客動員のノウハウを知り尽くしています。
5、持って生まれた決断力の速さと、それを支える圧倒的な読書量です。
6、女優経験が、俳優の生理を理解して適切な管理、アドバイスができ、熱い信頼を得ています。
1、 シス・カンパニーという強大な俳優軍団を持っています
北村明子さんが社長の俳優プロダックション「シス・カンパニー」に所属する俳優を見ると、いずれも毎日のようにテレビで見る「スター軍団」です。
俳優以外にも三谷幸喜氏などの文化人も所属する、言ってみれば大プロダクションです。
舞台を制作する時に、この豪華俳優陣でキャスティングでき、さらに「中井貴一」「大泉洋」「稲垣吾郎」「草彅剛」「香取慎吾」「ムロツヨシ」「吉田羊」「宮沢りえ」「天海祐希」などの輝くようなスターを配役し「これでもか!これでもか!」といった、豪華俳優を並べて行きます。
ちょっとしたテレビドラマのキャスティングよりも、はるかに豪華絢爛です。
この方式は、かつて新劇団の「俳優座」に加藤剛、栗原小牧、仲代達矢などの大スター軍団がいて、俳優座の公演に出演していたのとよく似ています。
北村明子さんの出身は、その老舗劇団のひとつ「文学座」です。
文学座も俳優座に劣らぬ、大スター軍団でした。
文学座には、杉村春子、太地喜和子、田中裕子、北村和夫、渡辺徹、江守徹(現役)、内野聖陽、などが所属し、養成所出身者には松田優作、中村雅俊、桃井かおり、などスターが排出されています。
北村さんの身体には、確実にこの新劇団の遺伝子が入っていると思います。
それは北村さんが上演する演劇作品の社会性や芸術性の中に、確実に見受けられます。
北村さんが大ヒットを連発する土台に、シス・カンパニーという強力な大スター軍団があることは、明らかです。
2、シスカンパニーは、それを支える強力なマネージメント軍団と戦略が存在しています
若者に人気だったとはいえ、小さな劇団のマネージメント部門だった、シス・カンパニーが数多ある芸能プロダックションの中でも、有数の強力スター軍団となったになったのでしょうか?
もちろん、一朝一夕ではありません。
私がこまつ座、新国立劇場でプロデューサーだった時代、連日のようにシス・カンパニーの女性マネージャー達からの電話がありました。
当時、シス・カンパニーのスタッフは全て女性でした。
一説に、スタッフ全てが女性なので「シスター」という言葉から、「シスカンパニー」と名付けたと聞いたことがあります。
これはあえて北村さんに、尋ねたことはありません。
なんだか、あまりにも親しくさせていただいていて、今更聞く? とか思われても‥ちょっと私のシャイなとこです。
そのマネージャーたちが、その彼女達が毎日のように、電話をしてきたり、突然目の前に現れたりました。
電話では

「中島さん、今日、お時間あります? 寄せてもらってもよろしいですか?」
シスのスタッフは、北村さんの出身が京都だからか「伺ってもいいですか?」というのを、
「寄せてもらってもいいですか?」と聞いてきました。
「いいですけど、なんの話ですか?」
いつものことですが、一応、先方の訪問理由を聞くのが礼儀かな?
「これからの企画とか予定とか、色々聞かせてください」
そう言ってやってくると、凄腕刑事の尋問のように、根掘り葉掘り徹底的にこちらの企画や考えている事を丸裸にされていました。
台本ができているば、その場で1時間くらいで読んでしまい
「中島さん、この三郎っていう役、もう決まった? これウチのAがピッタリなんだけど」
まだ俳優が決まっていなければ、その一言で決めてしまうこともありました。
台本がない時は「原作ある?何ていうの?」と聞いて帰り、遅くても翌々日には原作本を読んで電話がかかってきます。
「原作小説の中の源太っていう人物、舞台になってもありそう? これ、ウチのHどうかしら?」
そのような電話が、シスカンパニーの複数のマネージャーから、どうかすると日に3本かかってきました。
もっというと、1時間おきに違うマネージャーが新国立劇場に現れて、俳優の売り込みやこちらの企画を聞きに来ていました。

出演してもらいたくなるプロダクションです。
「さっき、オタクのSマネージャーさんが来てたよ」
「私は担当が違うので、私の担当はYとM、そしてKの3人なんで‥」
マネージャー達は、それぞれに担当する俳優がいて、それを徹底的に売り込みながら、テレビ局や劇団、劇場を回って得た情報を共有しながら、ある時は個別に波状攻撃のようにやって来て、ある時はスクラムを組んで突進してきます。
NHKの食堂に行くと、大抵シスカンパニーのマネージャーさんの誰かに会います。
他の俳優プロダクションのマネージャーに出会うと「シスさんの後には、ぺんぺん草も生えてない、もう、ここはダメだぁ‥」そう言って、肩を落として帰って行きます。
それを20年、30年続けていますから、テレビを点けると必ずと言っていいほど、シス・カンパニー所属の俳優さんが出ています。
朝ドラや大河、民放の各局でお馴染みの「小野武彦」「段田安則」「堤真一」「高橋克実」「八嶋智人」
「キムラ緑子」「鷲尾真知子」さらには「野村萬斎」「三谷幸喜」などです。
芸能界ではこのシス・カンパニーのマネージメント力の高さに、所属を希望するタレントが多くいますが、社長の北村明子さんのお眼鏡に叶わなければなりません。
俳優の能力に加え、教養や自己責任能力も加味され、簡単には所属できない俳優事務所です。
3、プロダクションの社長、そして演劇プロデューサーとして、多くの俳優マネージャーとの強力な関係性を作っています
3つ目の理由は、北村明子氏の頭抜けたキャスティング能力です。
普通、プロデューサーが俳優に出演交渉をする時には、所属するプロダクションに連絡をし、スケジュールを確認、空いていれば企画や作品内容の説明をして出演交渉を進めて行きます。
当然、初めてのマネージャーさんもいます。
マネージャーさんや俳優さんが出演を承諾してくださるには、企画が面白かったり、演出家や作家が魅力的だったり、あるいは信頼のおける制作会社だったり、さまざまです。
逆にマネージャーさん達は、ご自分のタレントを舞台に出演させたいと思ったら、どうすればいいのか?
直接、演劇プロデューサーか演出家にお願いしに行くのですが、実際にはどのような演劇作品が自分のタレントに向いているのか? 演劇界の事情もよく分からないので、実際に舞台にタレントを出演させているマネージャー仲間に聞いたりと、結構手探り状態なのです。
と、そんな時にテレビ局でシス・カンパニーの俳優と自分の事務所のタレントが共演しているところに、北村明子さんが現れます。
マネージャーとしても大物の北村さんです、当然、他のマネージャーさん達はこぞって「ご挨拶」をさせていただきます。
と、北村明子氏は優しい笑顔で「オタクのYさん、頑張ってますねぇ、凄くいいわよ、ねえ、今度、私がプロデュースする作品に出てくださらない? Yさんにとってもいい舞台があるのよ、共演はウチの堤真一と高橋克実、キムラ緑子、もう一人段田安則を考えているんだけど」
演劇プロデューサーとしても、プロダクションの社長としても信頼の厚い北村さんに、そう言ってもらえれば、マネージャーとしては嬉しいに決まっています。
これでそのタレントの出演は決定です。
そうやって、北村さんの舞台には「大竹しのぶ」「宮沢りえ」「天海祐希」「吉田羊」あるいは「大泉洋」「ムロツヨシ」「中井貴一」「稲垣吾郎」「香取慎吾」など大スターが参加し、シス・カンパニーのスター軍団と共演しています。
現在の演劇界でこれだけのキャスティング力のあるプロデューサーは、おそらく唯一無二だと思います。
4、野田秀樹作品のプロデュース経験で得た、観客動員のノウハウを知り尽くしています
北村さんは、かつて大人気を誇った野田秀樹氏の「夢の遊眠社」その後の「NODA MAP]のプロデューサーとして、手腕を発揮していました。
今や伝説となった「夢の遊眠社」の客席は常に満員御礼で、北村さんは観客動員数も5万人規模の公演を取り仕切っていました。
「夢の遊眠社」が、いくら超人気劇団だったとはいえ、何もしないで5万人の観客を集めることは出来ません。
様々な戦略を駆使して北村さんは「夢の遊眠社」で観客を集めてきましたが、そのノウハウはそのままシス・カンパニーに引き継がれています。
まず、無料の会員組織があり私の知っていた数年前に、すでに会員数は10万人を超えていました。
いずれも、シス・カンパニーのファンで、しかも無料会員になれば様々なお知らせや、一般前売り前にチケットを購入できるメリットがあります。
シス・カンパニー公演のチケットの大半はこの組織で売れてしまいます。

さらに東京大学出身の野田秀樹氏の人脈で、広がった企業や団体などへの徹底した営業販売戦略などで、チケットは即日完売をします。
もうひとつ、北村明子さんの哲学に「客席が満員になってこそ、素晴らしい舞台が完成する」というのがあります。
そのためにチケットは1枚も無駄にしません。
私がご招待状をいただき、出席の返事をした時は、ご招待日の前日に必ず、シス・カンパニーのチケット担当者から、出欠再確認の電話が入ります。
出席と返事をしても、どうしても行かれなくなったり、あるいは出席の日を失念していたりすると、チケットが無駄になってしまいます。
それを防ぐた為に、徹底した確認の電話が入ります。
万が一、都合が悪くなって行けない人がいると、その人の招待券は当日券として販売いたします。
シス・カンパニーの当日券はいつも長蛇の列です。
5、持って生まれた決断力の速さと、それを支える圧倒的な読書量です
私は40年ほどのお付き合いですが、北村さんが悩んでいる姿を見たことがありません。
一瞬、何かを考えている姿を見せることはありますが、それは悩んでいるのとは違います。
「中島ちゃんこうしましょう!」いつも瞬間、瞬間に結論を出しています。
因果関係というのは原因があって結果があるというのが普通ですが、北村さんは先に結果があって、それが正しいのか考える、時間というか決断する為の一瞬が必要なだけで、どうも頭で考えていなく、歩んできた全人生の中で蓄えた、知識と体験を基にした第六感のようなもので結論を出している感じです。
なまじ考えるより、その方が正解に近い答えが出るのでしょう。

実は、その結論を導き出すための材料として、北村さんのとてつも無い読書量があります。
戯曲を中心ではありますが、常に本を読んでいます。
戯曲だけなら1,000冊は読破しているでしょう。
プロデューサーなら当たり前なんでしょうが‥
普通のプロデューサーはそんなに沢山読んでいません。
その他、小説や論説などを加えると、軽く数千冊の読書量になります。
最後にその膨大な知識量に自分の人生経験で得た感性をプラスして結論を出し、それが全て的中し、偉大なプロデューサーとなって行きました。
6、女優経験が、俳優の生理を理解して適切な管理、アドバイスができ、熱い信頼を得ています。
若い時代に老舗劇団文学座の研究所を卒業し、女優をしていました。
1983年の原田知世主演「時をかける少女」に、主人公のボーイ・フレンド堀川吾郎の母親役で出演しているのを観ることができます。
ご自身が俳優をやっていたので、俳優の生理や悩み、あるいは様々な状況においての精神状態など、手に取るようにわかり、その都度、適切なアドバイスをするとともに、厳しくもあります。
シス・カンパニーの俳優は1年契約制で、毎年、翌年所属できるかどうか、査定されながらで仕事をしています。

1作、1作が真剣勝負です。
こんなシステムは俳優を経験した人にしか作れません。
今までに、劇団の演出家や劇作家が代表を務め、合わせてプロデューサー的な仕事をしている人もいました。
しかし、俳優出身で、北村さんほど本格的なプロデューサーとして、舞台を作った人はいませんでした。
経歴や経験、そしてセンスなど見ながら感じることは、不世出の演劇プロデューサーで、もう2度と現れない人材だと思います。
これから
北村明子さんは、自身が築き上げた「シス・カンパニー」を、一代限りのものにすると、公言しています。
確かに、マネージメントの会社としての機能は残ると思いますが、演劇プロデュース会社としては、北村明子プロデューサーが唯一の存在で、弟子や次ぐ人物は今のところ見当たりません。
北村明子さんの歩んだ軌跡を見るに、その人生の上に築かれた「シス・カンパニー」は、他の人生経験を歩んで、プロデューサーになった人間には真似のできない要素が多くあります。
上にも書きましたが、おそらく彼女のような演劇プロデューサーは今後現れることはないでしょう。
しかし、彼女の模倣ではなく、彼女の芸術的遺伝子を持った人材は、また、別の形で現れてくるかもしれません。
あるいは、もう出ているのか?
まだまだ、楽しみな演劇界です
中島豊