俳優養成所を卒業した俳優(あなた)が、勝ち抜くためのアドバイス

職業、俳優と書くには

 俳優養成所、あるいは専門学校や大学の俳優科を卒業したあなた(俳優の卵)は、どうすれば俳優の卵から俳優となれるのでしょうか?

 何にも難しいことはありません。

 実は俳優のほとんどが自称です。

 まあ、一般的には俳優という仕事だけで生活している人、ということなんでしょうが、そらく俳優という職業だけで暮らしていける人は、俳優全体の多く見立てても3%です。

 実はこの3%の俳優の収入が、俳優全員の収入の97%を持っていくそうです。

 分かりやすく言うと、俳優全員が年間稼ぐギャラを仮に10億円とすると、9億7千万円を3%の人が持っていき、残り3千万円を97%の俳優で分けると言うことです。

 俳優の総数が20,000人と言われていますが、上記の考えで言うと、上位600人が19,400人が稼ぐ総金額と同じ額を稼ぐということです。

 

 後は、副業を持っていてどちらかというと、そちらの方からの収入が多いという俳優がほとんどです。

 でも、そういう俳優でも年に数回、演劇やテレビなどに出演して「ギャラ」をもらったりしますので「職業=俳優」と言っても、何にも問題はありません。

 まあ、芸術家と言い換えれば、世の中そんな芸術家は山ほどいます。

 歴史上の芸術家を見ても、医師だった人、会社員だった人、教師など、どっちが副業かとかあまり考えずに、二足の草鞋を履いていた人物は大勢いました。

 ですから、俳優を志す人は「俳優で食えていない」とか「アルバイトの方が収入がある」などと考えて、落ち込まない方がいいです。

 アルバイトと考えないで、それも仕事、俳優も仕事、と考えていた方がいいのです。

 ですから「俳優の卵」と呼ばれたり、自分で思ったりするのは養成期間の間だけで、卒業したら
「自分は俳優」と思って、生きていくべきです。

俳優のジャンルはボーダーレス

 俳優と言っても、映画俳優、舞台俳優、テレビタレントなど、様々なジャンルがあるように思えますが、ひとりの俳優が映画に出て、舞台もやって、連続テレビドラマに出演するという事は、現代では、ごく自然のことです。

 それどころか、歌手やモデル、最近はお笑いのジャンルの人で俳優なんて人も沢山いますので、俳優1本の人にとっては結構エグい時代です。

 かつては、映画俳優とか舞台俳優とか名乗って、その道専門なんて人もいましたが、現在はそれぞれの作品数が少なっくなったので、悠長に「映画だけしかやらん!」とか「俺は舞台一筋!」なんて言ってると、なんにも仕事が無くなってしまいます。 

 まあ、結果として今年は舞台が多かったとか、Vシネマでなんとか生き延びたという人がいますが、あくまでも結果で、その仕事以外やらなかった訳ではありません。

 ですから、俳優という職業をあまり狭めて考えないで、犯罪以外は何でもやるし、何でも出来ると思った方が良いと思います。

具体的な仕事の入り方

 では、卵からかえって、俳優となったあなたは、どうやったら舞台に出たり、映画やテレビに出たりできるのでしょうか?

 あなたが一人で、履歴書を書いて、あちこちのテレビ局や劇場に送って、それから電話で連絡して「私に仕事をください!」

 そんな努力をして仕事が入ればいいのですが、そんな簡単なことではありませんし、そんな事をする細かなノウハウやプロデューサーやディレクターとの人脈は、新人俳優のあなたにはありません。

 その様な仕事をするのが、プロダクションや劇団のマネージャーです。

 新人俳優は自分に仕事を探してくれる、マネージャーと呼ばれる人が必要です。

 その為には、劇団ないしは俳優プロダクションに所属をし、そこから仕事を紹介してもらうことになります。

 劇団の場合は、劇団組織の中に「マネージメント部門」があり、そこに担当のマネージャーがいて、俳優の売り込みや業務管理(ギャラ交渉、スケジュール管理など)をやってくれます。

プロデューサーにアポを取る、女性マネージャー。
近年、女性のプロダクション経営者も増えております。

 但し、これはかなり大手の劇団の場合で、小さな劇団組織の場合にはこのような組織がないところがほとんどです。

 その場合、俳優は外部出演のための、劇団とは別のプロダクションに入っています。

 プロダクションも仕事内容は劇団とほぼ同じで、俳優の売り込み、ギャラ交渉、スケジュール管理、などをしてくれます。

 勿論、それに対しての対価がありますが、出演料の3割程度が相場です。

プロダクションに入る2つの道

 劇団の場合は、ほとんどが付属の養成所を卒業して、選抜の上、劇団の所属俳優となります。

 プロダクションに入るには、道は2つです。

 ひとつは、自分が通っていた俳優養成所の卒業公演にプロダクションの関係者が見にきて、そこでスカウトされるパターンです。

 この場合、専門学校などの養成施設も対象になりますが、その養成所からプロダクションへの招待状が出ていて、養成所や学校が卒業予定者を積極的に売り込む事が必要となります。

 新国立劇場の研修所の場合は、卒業年度の夏と秋の発表会、そして卒業公演の全てにプロダクション関係者をお呼びして、多ければ3回の公演を観てもらい、その間、研修所担当の職員が積極的に売り込んで、スカウトしてもらうことになっております。

 勿論、それで全ての卒業生の進路が決まる訳ではありません。

 どんな俳優養成所や専門学校でも、かなりの卒業生が行き先が決まらないで卒業して行くのが現実です。

 運よく、プロダクションに入れたとしても、すぐにデビューできる訳ではなく、それこそ何年も仕事がない状態が続きます。

 では、進路が決まらないままに卒業してしまった、新人俳優はどうなるのでしょう?

 正直申し上げます。

バイトも超ベテランになってくると、やり甲斐が生まれてきます。

 半数、いやそれ以上の新人俳優は1年から2年の間に、残念ながら新人のまま、1度も俳優としての仕事をしないまま、この芸能界から去っていきます。

 卒業後、しばらくはアルバイトなどして生活しますが、そのまま、アルバイトが職業になっていきます。

それはそれで、悪いことではありません。

ただし、それを避けるには単発なアルバイトをする俳優が多いいです。

舞台の仕事が入ると、平均して1ヶ月稽古、1ヶ月本番などという日程ですから、その間はアルバイトを休まなければなりません。長期の休みが取れるアルバイトとなると、単発のアルバイトになります。

 プロダックションに入る二つ目の道は何かと言いますと、自分でせっせと履歴書を書いて、プロダクションに送って、面談をして欲しい旨連絡をします。

 あるいは、時々、プロダクションが行うオーディションを受けたり、プロダクションが経営する俳優養成所に入ってチャンスを待ちます。

 但し、養成所の中には、高額な学費をとって大した授業もしない所もありますので、信頼できるプロダクションの養成所を選んでください。

 その間にも、養成所時代の仲間と自主公演をしたり、あちこちのオーディションを受けたりして、プロダクションのマネージャーさんの目に留まるように活動を続けます。

 そんな時、共演者がどこかのプロダクションに所属していると、そこのマネージャーからお声がかかることもあります。

 とにかく、末席でもいいからと俳優事務所に所属させてもらってください。

 これが、俳優としてスタートできるかどうかの第一関門になります。

 履歴書を送ったり、卒業した養成所の先生からの推薦状をもらったり、知り合った先生の片っ端から「先生、どこか紹介してください」と命懸けで頼むんです。

所属事務所が決まったら

 紆余曲折、様々な苦労を経て、劇団、あるいは俳優のマネージメント事務所に所属する事ができました。

 実はここからが、本当に厳しい俳優人生の始まりです。

 俳優としての実績がまだ無いので、そう簡単に仕事は入りません。

 同じ事務所、または劇団に売れている俳優がいる場合、業界用語で「抱き合わせ」とか「カップリング」とか言って、共演させてもらえる場合があります。

 最初の3年は、まず、大きな仕事はないと思っていいでしょう。

 よほど、運がいいか、何か個性というか特徴があれば別ですが‥

 この場合の特徴というのは、はっきり言って、上手い下手ではありません。

 若い俳優で、メチャメチャ上手ければ、もうどこかで使われています。

 俳優としての才がるかどうかというより、テレビ局のプロヂューサーやディレクターが面白がってくれるか、あるいは映画監督や舞台演出家、またはプロデューサーが面白いと思ってくれるかです。

 それには、やはり自分の出演した作品を見てもらわなければなりません。

 ここが最初の大関門です。

 実績の無い俳優を、何のキッカケもなく最初に使うプロデューサーやディレクターはいません。

 このキッカケに役に立つのは、マネージャーさんが何か売り込める特技を持っていることです。

 私たちプロデューサーが本当の新人を使う場合は、スペシャルなコネ以外は、俳優の持っている特技、これしかありません。

 良く探すのは、めちゃくちゃ歌がうまいとか、ダンスが抜群、あるいは何か楽器(三味線、管楽器、打楽器など)が出来る、馬に乗れる、アクロバット的な動きができるとか、背が凄っく低い、あるいはとても個性的な顔(はっきり言って不細工)をしている。

 こういう俳優はひょんなことで、仕事が入る事があります。

 なんとか、実績の俳優は、自分のアピールポイントを伸ばしたり、新しく挑戦したりして、その領域を広げる努力が必要です。

 実際、新国立劇場で私がキャスティングした実績のない俳優は、もの凄く太った俳優(体重120キロ以上)や背の低い男優(身長150センチ台)、やたら背が高い俳優(195センチ)、燃料を口に含んで火を噴く事ができる俳優、楽器が出来る俳優(トランペット)などでした。

 若い俳優の実力はどんぐりの背比べです。

 上手い下手より、特技がモノを言う事が少なくありません。

この子、ダンスも歌もいけますし、実は東北弁もやれます。
うちの事務所の次期エースです。

 普通の容姿の俳優に残された道は、兎に角ステージなりスクリーンで見せる事ができるレベルの特技です。

 そして、マネージャーさんに日々努力している姿をアピールする事です。

 マネージャーも人の子です。

 自分が担当した若い俳優が、いろいろ頑張っているのを知れば、何とか売り込もうと頑張ってくれます。

 マネージャーとあなたは、二人で仕事をするのですから、新人俳優のあなたは、自分という商品の価値を少しでも上げられるように、努力しマネージャーさんを助けなければなりません。

新人俳優の収入

 マネージャーがあなたを一生懸命に売り込んでくれて、ようやくテレビの仕事が入ったとします。

 緊張しながらも、あなたはワクワクしてテレビ局に行きます。

 ですが、もっと緊張しているのはあなたを売り込んだマネージャーです。

 あなたが上手くいかなければ、そのマネージャーが売り込んでくる俳優は大したこと無いというレッテルが貼られてしまうからです。

 ですから、現場での礼儀作法、居住まいなどはマネージャーが丁寧に教えてくれると思います。

 あなたは、その言葉をしっかり守って、頑張ってください。

 そして、ここでもらう「ギャラ」ですが、番組や役柄にもよりますが、新人俳優の場合1時間番組で、セリフが3つくらい、シーンは10程度で100,000円程度です。

 これに消費税が10%で支払われます。

 ですから110,000円ですが、源泉徴収が10%、事務所手数料が25%ほどありますので、

110,000円✖️90%(源泉徴収後)=990,00円 そしてこれに手数料25%として
99,000円✖️75%=74,250円

この74,250円があなたの出演料となります。

はじてめて俳優でもらったギャラ、嬉しくって、嬉しくって、
が、このまま月収3万円が10年は続きます。

このような仕事が、最初の1年に多くて5本程度でしょう。

そうなりますと、あなたの俳優としての1年目の年収は大体371,250円です。
月収で約30,000円です。

これは養成所を卒業して、無事どこかの俳優プロダクションに所属できて、しかも、100人に1人程度の確率で仕事が貰えた場合です。

ほとんどの俳優は、3年目とか5年目でこのようになれば運がいいと言えます。

ですから、俳優の仕事がない時は、私の知っているかなりのキャリアの俳優でも別の仕事をしています。

深夜の交通整理員やガードマン、工事現場の労働者、テレビ局の大道具、レストランでの給仕、バーテンダー‥あらゆる仕事をしています。

そして俳優での収入は多いい時で、年収100万円、少なければ0円という生活が10年、人によっては20年、30年と続きます。

ですが、あなたは俳優としての人生を何の疑いもなく、しっかりと生きていれば、突如、光が当たる瞬間が来ます。

ちゃんとやっていれば、絶妙なタイミングでチャンスが来ます

 長年、アルバイトをしながら、年に数本のテレビや舞台をやり続けていた俳優が、ある日突然、売れて、舞台やテレビ、映画で見ない日は無いという状況になって行く。

 私がこの世界にいた45年、そのような事はたくさんありました。

 勿論、ただただ「仕事が来るのを待って、来たらそれをこなす」それだけでは、ある日突然来るチャンスを逃してしまいます。

 小さな劇団でも、自主映画でも、何でも挑戦してください。

 自分からどんどん売り込んで、その間にもどこかでワークショップやオーディションに挑んでください。

 そして、あなたが考える「俳優道」を確立し、それに向けて突き進んでください。

 難しいことはありません「俳優道」とは、俳優が100人いれば、100通りの「俳優道」があります。

 あなたが「俳優とはこういうモノだ!」というのを作り上げることに、一生を使ってください。

 長年、俳優の仕事や俳優としての訓練、勉強を続け、それが熟成した時に、必然的なきっかけにより、あなたは注目を集め、仕事がどんどん来るようになります。

 私が経験した、数えきれないほどの例があります。

 最近では吉田剛太郎や遠藤憲一、松重豊、酒匂芳、佐藤二朗、六角精児の各氏など、長いキャリアを持ち自分の持ち味を充分に自分で熟成させ、まさに「今だ!」というタイミングで世に出てきました。

 それが50代ならそれが、60代ならそれが俳優として一番いいタイミングだったのです。 

周りが淘汰されて行くのも、チャンスが広がる要因です

 もうひとつ、これは単に確率の問題ですが、20代の俳優は10,000人います。

 30代になると、5,000人になります。 40代では2,000人です。 

 50代では500人程度でしょうか?

 圧倒的に少なくなります。

 そして、この中で俳優としての自覚を持った生き方をしていた人が、ある日突然「世の中に出て来た」ように見えますが、突然でも運がいいわけでもなく、出るべくして出て来た俳優たちです。

最後に

 表題に「勝ち抜くためのアドバイス」と書きましたが、実はこの世界「競争に見えて、競争ではありません」、あくまでも人間を演ずる職人として「己を磨く修行」だけです。

 それが熟成せれれば、必然的にあなたは世の中に必要な俳優になって行きます。

 どの道もそうですが、「相対的世界」に見えて、実は「絶対的世界」として生きていた人が世に出て行きます。

 どうか、人間の深い悲しみや喜び、時には愚かさ、そして深い愛情に満ち溢れた「人間を演ずす匠」を目指してください。

 ご成功をお祈りいたしております。

元新国立劇場プロデューサー
中島豊

 

 

 

 

 

 

 

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