俳優の舞台出演料は、その公演規模や回数、俳優のキャリアや観客動員力によって、大きく変わります。
今回は平均的な俳優の出演料に関して、お話をしていきます。
舞台の出演料 モデルケース
一般的に俳優の出演料は映画が一番高額で、次にテレビ、一番安いのが舞台となっています。
だからという訳ではないでしょうが、テレビ局や映画撮影所に行く俳優は、オシャレな服を着ていますが、劇場に来る俳優は、Gパン‥最近ではデニムというらしいですが、それにスニーカーを履いて来ています。
どうも、できるだけ貧しい格好をしているのが、粋な舞台人で
「そんじょそこらのタレント風情とは違うぜ!」と、妙にイキがっている人もいますが、そういう俳優は、たいていすぐ消えました。
さて、出演料の話ですが、ひとつのサンプルケースとして、映画、テレビ、舞台、それぞれ脇役的な出番経験のある、40歳の俳優をモデルといたします。
脇役といっても、舞台の場合は、主役、脇役に関係なく、公演の時は毎日舞台に立たなければなりませんし、公演前の稽古期間は1か月ほどあります。
今回は映画やテレビがリハを含めて1週間から10日ほどで撮影が終わる、そんな役柄の俳優をモデルといたします。
ギャラは、この40歳中堅俳優、映画のチョイ役で1週間拘束の場合、出演料は50万円程度です。
テレビの場合では、同じような役柄と拘束期間で、10万円から20万円です。
これが舞台になると、稽古1か月、本番約1か月(15回公演)の合計2か月で、45万円から60万円程度です。
確かに単価は断然、、映画やテレビの方が上です。
でも、映画やテレビの仕事が毎日あるわけではなく、映画が年に2本、テレビも年に4、5回の出演が1年間の平均的な仕事量になります。
年収にして200万円位です。
連続ドラマのレギュラーとか、映画も準主役とかでない限り、映画やテレビだで生計を立てていくのは大変です。
舞台出演料に関して
舞台の出演料計算は東宝、松竹の商業演劇が月単位で幾ら、宝塚などが給与システムで、それらを除くと、プロデューサーは概ね、本番1ステージ当たりの金額を元に、総ステージ数で計算します。
稽古に関して、手当を支払う劇団やプロデュース会社もありますが、計算の根拠はあくまでも1ステージの金額です。
というのも、演劇の場合、公演しなければ入場料が入って来ません。
いくら、一生懸命、稽古をしても、お金に関しては1円も入ってこないのです。
それどころか、本番のための準備に、やたらお金が出ていきます。
稽古手当という名目で、ギャラを支払うとしても、根拠になるのは1回、1回の公演で入ってくる入場料でしかないのです。
したがって、支払う金額は同じで、全部出演料として払うか、3割を稽古、7割を本番という名目で分けて払うかの違いであって、プロデューサーが払う総額は同じです。
身もふたもない話ですが、10万円払うのに3万円は稽古、7万円は出演料と言って払うか、全部出演料として10万払うかだけです。
20代から30代半ばの、若手俳優の出演料
若手俳優と言っても、俳優になるまでの経緯で、若干の違いがあります。
但し、出演料をもらえるような、いわゆるプロの俳優とは、ある程度の規模の劇団員か、俳優プロダクション所属の俳優です。
まず、劇団員ですが、劇団付属の養成所を卒業後、内部審査を経て、合格した者が研究生、さらに審査を経て準劇団員となり、養成所卒業後5年ほどで劇団員になりす。
養成所卒業生100人の内、劇団員になるのは2、3人です。
これはかなり大手の劇団のケースで、もう少し規模の小さな劇団では、卒業後、直ぐに劇団員という道もあるようですが、これも卒業生の1割程度です。
大手新劇団の場合、早ければ研究生の時から、劇団の本公演に出演する機会があります。
これは、劇団の演出家が中心になって、作品の配役を決める際に、劇団員に敵役がいないとか、将来有望で特に演出家が望んでとか、さまざまな理由が考えられますが、正式な劇団員でなくても研修という意味で、研究生、準劇団員が本公演に出演することがあります。
さて、では問題の出演料ですが、大手新劇団の場合、若手俳優が自分の劇団に出演する場合は、おおよそ1ステージ15,000円程度と考えられます。
但し、ここから所得税10%を引かれますので、手取りで13,500円になります。
この俳優が、自分の劇団以外、例えば、同規模の外部の公演に出演した場合の、良心的な価格は約20,000円程度になります。
良心的な価格というのは、自分の劇団に出た場合の手取り額、13,500円に近い金額を確保するのに、外部出演で22,000円を劇団のマネージャーが要求する場合です。
外部出演の場合、約30%のマネージメント料が発生するため、俳優に入るのが15,400円になり、そこから税金の10%が引かれ、13,860円の手取りとなり、ほぼ劇団の出演料と同額になります。
但し、これは私がお付き合いした中でも、かなり良心的な劇団の俳優マネージャーの人でした。
劇団ではなく、タレント所属のプロダクションは、劇団に比べタレントを売り出す経費などがあり、もう少し金額は高いです。
プロダクションに所属するには、養成所の発表会を見に来てくれた、プロダクションのマネージャーに見込まれて、事務所に入れてもらえるとか、プロダクション独自のオーディションを受けて、合格するとかですが、よくある話で原宿でスカウトされたとかありますが、スカウトでプロダクションに所属するのは99%ありません。
実際に、渋谷とか青山とかで、スカウトに立つ、大手プロダクションのチーフ・マネージャーに話を聞いたことがあります。
「中島さんね、そんな簡単に見つけられませんよ、この道10年の目利きのマネージャーが見ても、1,000人に1人いるかどうかです、渋谷だと5日間位、朝から晩まで探して1人いればいい方ですね」
スカウトされるのは、1,000人にひとりとは0.1%です。
勿論、スカウトされた人が全て、デビュー出来るわけではなく、デビューまで行くのは、10,000人にひとりだと言われています。
スカウトと言うのが、芸能界では多そうに見えますが、実のところ、遠い、遠い道のりで、それならば、養成所なり学校なりで地道に努力していく方が、確率的には高いと思われます。
しかも、プロダクションの若手俳優が、劇団所属の俳優より、高額と言っても、若手の場合1ステージ30,000円程度です。
手取りは、」マネージメント料30%、所得税10%で、18,900円です。
知名度や演技力がまだない若い俳優が、あまり高額なギャラを要求すると、2度とお声がかからない、という事情もありますので、マネージャーは、プロデューサーとのギャラ交渉の場合には、その辺も頭に入れての交渉となります。
30代半ばから50代までの中堅俳優の出演料
経験も10年以上で、舞台、映画、テレビとそれなりに出演経験がある中堅俳優です。
劇団の舞台には毎年、1作品は出演し、テレビや映画でも、名前は分からないが、、見た事があるというランクの俳優です。
30代半ばから50代とかなり幅がありますが、この辺りになりますと、所属が劇団でもプロダクションでも、主役級やスター以外はギャラに大きな差はありません。
強いて言えば、プロダクション所属の方が、2、3割程度高いかもしれませんが、事務所の取り分で、本人に入る金額は、それほど変わりません。
このクラスの俳優の舞台出演料は、劇団の俳優で外部出演の場合、稽古1か月、本番15回程度で1ステージのギャラは30,000円から45,000円程度です。
稽古と本番の2か月で、15回公演だとして、1ステージ40,000円の俳優は、額面で450,000円、手数料と税引き後の手取りは378,000円となり、 月にすると189,000円となります。
但し、先にも申し上げましたと通り、1年中、仕事があるわけではありません。
すごく、ラッキーにテレビや映画の仕事が年に数本あり、声優のアフレコ仕事もやったとします。
それでも年収にして250万円からすごくいい年でも400万円に届かない状態です。
50代以上のベテラン俳優の出演料
キャリア30年以上、映画界やテレビ、演劇界に知り合いも増えた。
若い時には同年代の俳優は5,000人以上いたのが、中堅の時代には2,000人くらいになり、50代を超えると、同業者は1000人以下になっている。
その分、競争力も減り、俳優としての需要もある程度見込め、ギリギリだがなんとか生活もできている、いわゆるベテラン俳優。
このクラスになると、だいたい1ステージ55,000円程度になります。
1か月の稽古と1か月弱の15回公演で、額面825,000円 手数料、税引き後の手取り額519,750円で、月平均259,875円です。
もちろん、1年中仕事が続くわけではありませんが、この年代の俳優の総数(ライバル)が減っているので、テレビや映画のチョイ役で出演する機会も増えてきます。
それでも、年収にして400万円程度と思われます。
中にはこの辺りから、ブレイクしていく俳優(遠藤憲一、滝藤賢一など)も多く、長年の苦労が報われていく時でもあります。
スターの舞台出演料
俳優は夢のある仕事とはいえ、なかなか生活は大変です。
キャリアを積んでベテランになれば、それなりにと思いますが、今年良くても、来年は同じように仕事に恵まれるかわからないのが、いわゆる芸能界です。
それでも、多くの若者が憧れるのにはスターと呼ばれる、一握りの俳優たちの存在があります。
では、そのスターは演劇の場合、どの程度のギャラをもらっているのでしょうか?
はっきり言って、これもピンキリですが、実は世間が思うほどの金額ではありません。
ここでスターと定義するのは、2時間ドラマの主役級の俳優です。
ちなみに主役クラスで、テレビの2時間ドラマ1本、撮影日数2週間で最低500万円以上、連ドラ1本分、撮影日数1週間で、最低100万円以上です。
レギュラーで全12話出演ですと12週間、約3ヶ月で拘束が長いので、最低1,500万円以上です。
映画は拘束日数がまちまちですが、ほぼ1ヶ月拘束で3000万円以上です。
スターの収入のほとんどは、このような映画やテレビの出演料で、演劇に関しては、事務所も本人も最初から額が少ないことは理解しています。
それでも、舞台出演をするのは、生の観客を前にした演技で自分を鍛えたいとか、元々、舞台出身の俳優で、舞台の魅力が分かっているとか、長い稽古と公演期間で自分の演技術を磨き直したい。
あるいは、実力のある舞台俳優たちとの仕事で、実力をつけたい。
そういった、芸術的な欲求が、主な動機です。
ですから、スターでも、1ステージあたり、15万円とかで出演してくれるケースもありました。
あるいは、舞台出演は東宝、松竹のような大手商業演劇にしか出たことがないという俳優もいましたが、そういう俳優は、上演回数に関係なく1か月拘束400万円以上というような金額でした。
もし15回公演であれば、1ステージ20万円ということになりますが、スターが出演すれば、30回公演位考えられるので、そうなると1ステージ13万円強という計算になります。
スターの多くは、それぞれの劇団やプロダクションの事情があり、俳優が100人以上いるような劇団や、少なくとも50名近く所属するプロダクションと、スターひとりで、事務所スタッフ10人分の給料を賄っている事務所とか、歌舞伎の大スターともなると、お弟子的な付き人が数人付き、その人たちの給料も賄わなくてなならない。
そんな細かな事情が多々ありますが、どの事務所も俳優も熱心に仕事に取り組み、少しでも観客に喜んでもらおう日々努力をしています。
私の経験で、儲けようとか、目立とうとかしていた事務所や俳優は淘汰されていきました。
驚異的な努力をしている、スター達
一見、華やかで、派手な世界に見えるかもしれませんが、スターともなると、表に見えないところで、日々、レッスンしたり、トレーニングしたり、勉強のために色々な作品を見たり、肉体管理に気をつけたり、さらには役柄のための勉強として、歴史物や偉人伝など読んで必死に勉強しています。
大女優の森光子さんは、私が一緒に仕事をさせていただいた時、既に80歳を過ぎたご年齢でしたが、夜18:30時からの本番のために、まだ誰も来ていない13:00時には、劇場に入って来られました。
通常、18:30時からの本番だと、俳優は大体大体16:00時位に入ってきます。
入ってくると森光子さんは、楽屋でトレーニングウェアに着替え、誰もいない舞台や、舞台袖の広いところを利用して、じっくり1時間、柔軟体操と発声、その後、備え付けの鏡の前でスクワットをしたり腿上げをしたり、最後には起伏のある客席を走り回って、たっぷり1時間汗をかいていました。
その後、楽屋のお風呂に入って、出てくると少しだけ仮眠を取り、その後、再び劇場の客席で、ご自分のセリフを、本番通り最初から最後まで誦じ、最後に舞台と客席に丁寧にお辞儀をして、楽屋に戻り本番の準備をしていました。
これが毎日です。
本番が昼の時は、朝9時にはいらしてました。
さらに、自分の演技に少しでも疑問が出ると、すぐ演出家や舞台監督に相談したり、打ち合わせしたりして、すごく謙虚に彼らの言うことを聞いて、自分の演技に生かしていました。
森光子さんは、そうやっていつも、いつも舞台に臨んでいましたが、スターと言われた俳優たちは、一人残らず、これに近いことをして舞台に臨んでいました。
45年、この世界にいましたが、ギャラが高いスター俳優は、上手いし、俳優としての頭の良さを持っていましたが、何よりも必死に努力をしていました。
どんな職業もそうでしょうが、人間を演ずる匠の名優は、例外なく驚異的な努力に裏付けされた、実力を持っていました。
彼らが時々、若い俳優に冗談ぽく
「いいよなあ、お前は、売れてないから‥売れてるってほど、辛いことはないぞ」
笑いながらそう言っていたことがありました。