俳優の舞台出演料、2000人にギャラを払ったプロデューサーが語る

俳優の舞台出演料(ギャラ)は、その公演規模や回数、俳優のキャリアや観客動員力によって、大きく変わります。

今回は平均的な俳優の出演料に関して、お話をしていきます。

舞台の出演料 モデルケース

 俳優の出演料は一番高額なのが映画、次にテレビ、一番安いのが舞台となっています。

 だからという訳ではないでしょうが、テレビ局や映画撮影所に行く俳優は、オシャレな服を着ていますが、劇場や稽古場に現れる俳優は、Gパン‥最近ではデニムというらしいですが、それにスニーカーを履いて来ています。

 どうも、できるだけ貧しい格好をしているのが、粋な舞台人で
「そんじょそこらのタレント風情とは違うぜ!」
 と、妙にイキがっている人もいますが、私の経験から、そういう俳優すぐ消えました。

 出演料の話ですが、サンプルとして、映画、テレビ、舞台、それなりに目立つ脇役で出演経験のある、この道20年の42歳の俳優をモデルといたします。

 脇役といっても、舞台の場合は、主役、脇役に関係なく、公演の時は毎日舞台に立たなければなりませんし、公演前の稽古期間は1か月ほどあります。

 今回は映画やテレビがリハを含めて1週間から10日ほどで撮影が終わる、そんな役柄の出演といたします。

 ギャラは、この42歳中堅俳優、映画の脇役で1週間拘束の場合、出演料は50万円程度です。

 テレビの場合では、同じような役柄と拘束期間で、10万円から20万円です。

 これが舞台になると、稽古1か月、本番約1か月(15回公演)の合計2か月で、45万円から60万円程度です。

 確かに単価は断然、、映画やテレビの方が上です。
 でも、映画やテレビの仕事が毎日あるわけではなく、映画が年に2本、テレビも年に4、5回の出演が1年間の仕事量になります。

 これかなり売れてる俳優で、年収にして200万円位です。

 連続ドラマのレギュラーとか、映画も準主役とかでない限り、映画やテレビだで生計を立てていくのは大変です。

舞台出演料に関して

 舞台の出演料計算は東宝、松竹の商業演劇が月単位で幾ら、宝塚などが給与システムで、それ以外の劇団や制作会社のプロデューサーは、本番1ステージ当たりの金額元に、総ステージ数で計算します。

 稽古に関して、手当を支払う劇団やプロデュース会社もありますが、計算の根拠はあくまでも1ステージの金額です。

 というのも、演劇の場合、公演しなければ入場料が入って来ません。

 いくら、一生懸命、稽古をしても1円も入ってこないのです。
 それどころか、本番のための準備に、やたらお金が出ていきます。

 稽古手当という名目で、ギャラを支払うとしても、根拠になるのは1回、1回の公演で入ってくる入場料でしかないのです。

 したがって、支払う金額は同じで、全部出演料として払うか、3割を稽古、7割を本番という名目で分けて払うかの違いであって、プロデューサーが払う総額は同じです。

 身もふたもない話ですが、10万円払うのに3万円は稽古、7万円は出演料と言って払うか、全部出演料として10万払うかだけです。

20代から30代半ばの、若手俳優の出演料

 出演料をもらえるような、若手俳優とはある程度の規模の劇団員か、俳優プロダクション所属の俳優です。

 劇団員になるには、劇団付属の養成所を卒業後、内部審査を経て、合格した者が研究生、さらに審査を経て準劇団員となり、養成所卒業後5年ほどで劇団員になりす。
養成所卒業生100人の内、劇団員になるのは2、3人です。

 最もこれは大手の劇団で、それより規模の小さな劇団(劇団員100人以下)では、養成所卒業後、直ぐに劇団員という道もあるようですが、これも卒業生の2割程度です。

 文学座のような大手新劇団の場合、早ければ研究生の時から、劇団の本公演に出演する機会があります。
 これは、劇団の演出家が中心になって、作品の配役を決める際に、劇団員に敵役がいないとか、将来有望で特に演出家が望んでとか、さまざまな理由が考えられますが、正式な劇団員でなくても研修という意味で、研究生、準劇団員が本公演に出演することがあります。

 出演料ですが、大手新劇団の場合、若手俳優が自分の劇団に出演する場合は、おおよそ1ステージ15,000円程度と考えられます。

 但し、ここから所得税10 %を引かれますので、手取りで13,500円になります。

 この俳優が、自分の劇団以外、例えば、同規模の外部の舞台に出演した場合の、良心的な価格は約20,000円程度になります。

 良心的な価格というのは、自分の劇団に出た場合の手取り額、13,500円に近い金額を確保するのに、外部舞台出演で22,000円を劇団のマネージャーが請求する場合です。


 外部出演の場合、約30%のマネージメント料が発生するため、俳優に入るのが15,400円になり、そこから税金の10%が引かれ、13,860円の手取りとなり、ほぼ劇団の出演料と同額になります。

 但し、これは私がお付き合いした中でも、かなり良心的な劇団の俳優マネージャーの人でした。

 劇団ではなく、タレント所属のプロダクションは、劇団に比べタレントを売り出す経費などがあり、もう少し金額は高いです

プロダクションに所属するには、養成所の発表会を見に来てくれた、プロダクションのマネージャーに見込まれて、事務所に入れてもらえるとか、プロダクション独自のオーディションを受けて、合格するとかですが、よくある話で原宿でスカウトされたとかありますが、スカウトでプロダクションに所属するのは99%ありません。

プロダクションのスカウトが1日中、探しても5日間で1人見つかれば
ラッキーだという。

実際に、渋谷とか青山とかで、スカウトに立つ、大手プロダクションのチーフ・マネージャーに話を聞いたことがあります。

「中島さんね、そんな簡単に見つけられませんよ、この道10年の目利きのマネージャーが見ても、1,000人に1人いるかどうかです、渋谷だと5日間位、朝から晩まで探して1人いればいい方ですね」

スカウトされるのは、1,000人にひとりとは0.1%です。

勿論、スカウトされた人が全て、デビュー出来るわけではなく、デビューまで行くのは、10,000人にひとりだと言われています。

 スカウトと言うのが、芸能界では多そうに見えますが、実のところ、遠い、遠い道のりで、それならば、養成所なり学校なりで地道に努力していく方が、確率的には高いと思われます。

 しかも、プロダクションの若手俳優が、劇団所属の俳優より、高額と言っても、若手の場合1ステージ30,000円程度です。

手取りはマネージメント料30%、所得税10%で、18,900円です。

 知名度や演技力がまだない若い俳優が、あまり高額なギャラを要求すると、2度とお声がかからない、という事情もありますので、マネージャーは、プロデューサーとのギャラ交渉の場合には、その辺も頭に入れての交渉となります。

30代半ばから50代までの中堅俳優の出演料

 経験も10年以上で、舞台、映画、テレビとそれなりに出演経験がある中堅俳優です。

 劇団の舞台には毎年、1作品は出演し、テレビや映画でも、名前は分からないが、、見た事があるというランクの俳優です。

 30代半ばから50代とかなり幅がありますが、この辺りになりますと、所属が劇団でもプロダクションでも、主役級やスター以外はギャラに大きな差はありません。

 強いて言えば、プロダクション所属の方が、2、3割程度高いかもしれませんが、事務所の取り分で、本人に入る金額は、それほど変わりません。

 このクラスの俳優の舞台出演料は、劇団の俳優が外部出演した場合、
稽古1か月、本番15回程度で1ステージのギャラは30,000円から45,000円程度です。

 稽古と本番の2か月で、15回公演だとして、1ステージ40,000円とすれば、額面600,000円、手数料と税引き後の手取りは378,000円となり、 月にすると189,000円となります。

 ギリギリ独り身だったら、食えるか食えないか?

 ですが先にも申し上げましたと通り、1年中、仕事があるわけではありません。

 すごく、ラッキーにテレビや映画の仕事が年に数本あり、声優のアフレコ仕事もやったとします。
それでも年収にして200万円からすごくいい年でも400万円に届かない状態です。

 クレジットカードは作れません。

 審査で落ちるのです。

50代以上のベテラン俳優の出演料

 キャリア30年以上になりますと、映画界やテレビ、演劇界に知り合いも増えました。

 若い時には同年代の俳優は5,000人以上いたのが、中堅の時代には2,000人くらいになり、50代を超えると、同業者は1000人以下になりました。

 その分、競争力も減り、俳優としての需要もある程度見込め、ギリギリだがなんとか生活もできている、いわゆるベテラン俳優になります。

 このクラスになると、だいたい1ステージ55,000円程度になります。
1か月の稽古と1か月弱の15回公演で、額面825,000円 手数料、税引き後の手取り額519,750円で、月平均259,875円です。

 もちろん、1年中仕事が続くわけではありませんが、この年代の俳優の総数(ライバル)が減っているので、テレビや映画のチョイ役で出演する機会も増えてきます。

 それでも、年収にして400万円程度と思われます。

 中にはこの辺りから、ブレイクしていく俳優(遠藤憲一、滝藤賢一、松重豊、小日向文世など)も多く、長年の苦労が報われていく時でもあります。

 「よかった、よかった、頑張った」と言われます。

 ただし、そうならない俳優もたくさんいます‥厳しいですね。

スターの舞台出演料

 俳優は夢のある仕事とはいえ、なかなか生活は大変です。

 キャリアを積んでベテランになれば、それなりにと思いますが、今年良くても、来年は同じように仕事に恵まれるかわからないのが、いわゆる芸能界です。

 それでも、多くの若者が憧れるのにはスターと呼ばれる、一握りの俳優たちの存在があります。

 では、そのスターは演劇の場合、どの程度のギャラをもらっているのでしょうか?

 はっきり言って、これもピンキリですが、実は世間が思うほどの金額ではありません。

 ここでスターと定義するのは、2時間ドラマの主役級の俳優です。

 ちなみに主役クラスで、テレビの2時間ドラマ1本、撮影日数2週間で最低500万円以上連ドラ1本分、撮影日数1週間で、最低100万円以上です。
 レギュラーで全12話出演ですと12週間、約3ヶ月で拘束が長いので、最低1,500万円以上です。

 映画は拘束日数がまちまちですが、ほぼ1ヶ月拘束で主役は3000万円以上です。

 この辺は俳優によってまちまちですので、1500万円の人も、5000万円の人も‥いたのですが、最近は世の中、景気がよろしくないので、そ子までの俳優はもういなくなったかもしれません。

 ですが、スターの収入のほとんどは、映画やテレビの出演料で、演劇に関しては、事務所も本人も最初から額が少ないことは理解しています。

 それでも、舞台出演をするのは、生の観客を前にした演技で自分を鍛えたいとか、元々、舞台出身の俳優で、舞台の魅力が分かっているとか、長い稽古と公演期間で自分の演技術を磨き直したい。
 あるいは、実力のある舞台俳優たちとの仕事で、実力をつけたい。

 そういった、俳優としての向上心が主な動機です。

 ですから、スターでも、1ステージあたり、15万円とかで出演してくれるケースもありました。

  舞台出演は東宝、松竹のような大手商業演劇にしか出たことがない、という俳優もいましたが、そういう俳優は、上演回数に関係なく1か月拘束400万円以上というような金額でした。

 もし15回公演であれば、1ステージ20万円ということになりますが、スターが出演すれば、30回公演位考えられるので、30回で400万円なら、1ステージ13万円強という計算になるので、

「良いですよ、400万払います、その代わり30回ね」

「400万円くれるなら、良いですよ、どうせ1ヶ月、他にテレビとか入れられないから、何回でも」

 スターの多くは、それぞれの劇団やプロダクションの事情があり、俳優が100人以上いるような劇団や、少なくとも50名近く所属するプロダクションと、スターひとりで、事務所スタッフ10人分の給料を賄っている事務所とか、歌舞伎の大スターともなると、お弟子的な付き人が数人付き、その人たちの給料も賄わなくてなならない。

そんな細かな事情が多々ありますが、どの事務所も俳優も熱心に仕事に取り組み、少しでも観客に喜んでもらおう日々努力をしています。

私の経験で、儲けようとか、目立とうとかしていた事務所や俳優は淘汰されていきました。

驚異的な努力をしている、スター達

 一見、華やかで、派手な世界に見えるかもしれませんが、スターともなると、表に見えないところで、日々、レッスンしたり、トレーニングしたり、勉強のために色々な作品を見たり、肉体管理に気をつけたり、さらには役柄のための勉強として、歴史物や偉人伝など読んで必死に勉強しています。

 大女優の森光子さんは、私が一緒に仕事をさせていただいた時、既に80歳を過ぎたご年齢でしたが、夜18:30時からの本番のために、まだ誰も来ていない13:00時には、劇場に入って来られました。

通常、18:30時からの本番だと、俳優は大体大体16:00時位に入ってきます。

 森光子さんは劇場に入ってくると、楽屋でトレーニングウェアに着替え、誰もいない舞台や、舞台袖の広いところを利用して、じっくり1時間、柔軟体操と発声、その後、備え付けの鏡の前でスクワットをしたり腿上げをしたり、最後には起伏のある客席を走り回って、たっぷり1時間汗をかいていました。

 その後、屋のお風呂に入って、出てくると少しだけ仮眠を取った後、再び劇場の客席で、ご自分のセリフを、本番通り最初から最後まで誦じ、最後に舞台と客席に丁寧にお辞儀をして、楽屋に戻り本番の準備をしていました。

 これが毎日です。

 本番が昼の時は、朝9時にはいらしてました。

 さらに、自分の演技に少しでも疑問が出ると、すぐ演出家や舞台監督に相談したり、打ち合わせしたりして、すごく謙虚に彼らの言うことを聞いて、自分の演技に生かしていました。

 森光子さんは、そうやっていつも、いつも舞台に臨んでいましたが、スターと言われた俳優たちは、一人残らず、これに近いことをして舞台に臨んでいました。

 45年、この世界にいましたが、ギャラが高いスター俳優は、上手いし、俳優としての頭の良さを持っていましたが、何よりも必死に努力をしていました。

どんな職業もそうでしょうが、人間を演ずる匠の名優は、例外なく驚異的な努力に裏付けされた、実力を持っていました。

彼らが時々、若い俳優に冗談ぽく
「いいよなあ、お前は、売れてないから‥売れてるってほど、辛いことはないぞ」
笑いながらそう言っていたことがありました。

売れるのは、売れるので辛いのだそうです。

中島豊

おまけ

45年間、様々な俳優と仕事をさせてもらってきました。

ほとんどの俳優は真面目で、芸能界以外の世界でも、立派に仕事をしていけるような人ばかりでした。

特にスターと言われている人たちは「なんでこの人がスターになったんだろう?」

そう思う人は一人もいませんでした。

彼らの仕事に対する打ち込み方、姿勢を見ていると、スターにならない方がおかしいと思うような人ばかりでした。

努力している人に感心しながら、
その人たりを応援するため、乾杯をする中島です、みんな頑張れ!
乾杯!

お名前をあげるとキリがないのですが、私が特に感じたのは

山崎努さん、市原悦子さん、三田和代さん、内野聖陽さん、稲垣吾郎さん、岡本健一さん、風間杜夫さん、平田満さん、すまけいさん、大竹しのぶさん、
野田秀樹さん、段田安則さん、麻実れいさん、えーっと、ああ、もう上げきれないほどです。

次のチャンスにまだここに書けなかったスターのお名前を書かせてもらいます。

こんな天才たちと一緒に仕事ができたことに、凡才、丙才の私は幸せだったのか?

私の人生、なんだか、間違って、頭のいい学校に入っちゃったみたいでした。

まだ、続いてますけど

今後とも、よろしくお願いいたします。

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