「今回、この役はオーディションにします!」
プロデューサーの私がそう宣言すると、周りのスタッフたちは「😱えーっ」といった顔になります
オーディションは、審査する側にとっても非常に大変で、面倒な作業なんです。
普通にキャスティングをしていた方が、どんなに楽か‥。
じゃあ、なんでそんなにまでしてオーディションをやるのかというと、プロデューサー側に色々な思惑があるからなんです。
30数年、色々なオーディションを企画して、実際に審査員としても携わってきた中島プロデューサーが、今まで表には出なかった、というか表に出せなかった、オーディションの裏側をお話しさせていただきます。
だいぶ、がっかりするかもしれませんが、正直に書かせてもらいます。
但し、これはオーディションと言うモノのごく一部です。
そこを承知しておいていただき、あなたがオーディションでのなんらかの対策に役立てばと思います。
オーディションの裏事情(プロデューサーの本音)
本音その1 狙ってた俳優がNGになっちゃった‥仕方がない
主要な脇役に、それなりの上手い俳優を集めることはできたが、主役の若い俳優が見つからない、若手人気俳優は、既に10人近く当たったが全てスケジュールNGだったり断られたりした。
いっそオーディションをして
「2000人の中から選ばれた、奇跡の新人!」とか
「未だかつて見たことのない、彗星の如く現れた、珠玉の才能!」とか言って、
マスコミをガンガン煽って、宣伝効果高め、それでたとえまだ名前がない俳優を起用しても、観客動員が見込めるだろう。
大体、オディションに何人受けに来たなんてのは、誰もわからないから、場合によっては3000人とか5000人とか集まったことにして「5000人から選ばれた、若き天才の誕生!」とかなんとか言って売り出そう!

本音その2 予算が足りないな、なんとかしなくちゃ
今回予算が少なくて、ギャラをたくさん払わなくてはならないスターはやとえそうにない。
しょうがないから、オーディションをやって、大いに話題作りをして、さらにオーディションに応募してきた俳優だから、ギャラもある程度こっちの言い値で出演してくれるだろう‥それを狙おう!
本音その3 これで切符に結びつくぞ
大々的にオーディションの宣伝をして、たくさんの応募者、例えば2000人くらい集まれば、ほとんどの人は不合格になるけど、その不合格者の大抵7割くらいは、どんな俳優のライバルがオーディションに受かったのか知りたくて、切符を買って舞台を観にくるだろうから、それを狙おう。
本音その4=これはマジだった
外国人演出家なので、日本の俳優のことがよくわからない、演出家の希望でどうしてもオーディションをやらなければならなくなった。
英国人演出家のジョン・ケアード氏(ミュージカル「千と千尋の物語」の演出家)と、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」をやった時に、氏が日本の俳優がわからないのでオーディションをしたい。
‥そう言ってきた。
この時は、公募ではなく「ピック・アップ・オーディション」と言って、私がこれぞという俳優にお願いしてオーディションに来てもらいました。
ところが、結構、ネームバリューのある中堅、ベテランの俳優をことごとく不合格にされて、私、めちゃめちゃ焦りましした。
が、ケアード氏はシェイクスピアのお国から来た演出家で、しかも、父親が「シェイクスピア学者」という、シェイクス・ピアの化身みたいなお方なので、
「ケアード、あの俳優はバリューもあるし‥」とか言うと
「でもね、ユタカ、この役はキング・リアに出てくる道化につながっていて、シェイクスピアを知っている人が見れば、一目瞭然で、どうしてもこの役は〜〜〜」となって、
「そうなんだぁ、わかった、わかった、好きにしてぇ」
と言うオーディションもごく稀にあります。
それでもこの時の出演者は「村井國夫」「麻実れい」「故・神田沙也加」など錚々たるメンバーが揃いました。
そして、この時にはキャスティングまで行きませんでしたが、オーディションでジョン・ケアードに会った俳優の何人かは、その後の氏の作品に出演いたしました。
本音その5 でもやるからには新しい才能と出会いたい
オーディションを行うには、様々な狙いがありますが、やはり新しい才能と出逢いたいという気持ちは、審査員だけではなく業界で働く、全ての人の望みであります。
それはまだ誰も見つけていない、ダイヤモンドの原石を探すように、オーディション審査そのものは全員が必死でした。
私が一緒に審査員をした井上ひさし氏、野田秀樹氏、鈴木忠志氏、栗山民也氏、鵜山仁氏、いずれも必死に食い入るように応募者のパフォーマンスを見ていました。
もちろん、それが作品の成否に関わると言うこともありますが、我々がもっと望むのは、明日の芸能界を輝かす逸材を探し出すことでした。
それが、自分たちの使命であると皆さん考えていました。
オーディションの楽屋裏(地味なお仕事)
オーディションには上記のような、様々な目論みが、いくつか絡んでいるのが実態です。
そして、それをいざ実行しようとすると、まあ、とっても大変なことの連続です。
ここからは、ドキュメント・オーディションの裏側をお見せいたします。
まず何人合格させるのか、出演してもらう役どころを決めての「キャラクターオーディション」なのか、ある程度大勢のいくつかの役をやってもらう(市民、兵士、広間の客など)「アンサンブル・オーディション」なのか。
それによって審査目的が違いますが、今回は「キャラクター・オーディション」の場合をお話しいたします。
第1次審査まで
審査目的が決まると、誰に審査員をやってもらうかを考えます。
通常は演出家、劇作家、プロデューサー、場合によって音楽家、振付家などにお願いします。
審査内容は第1次審査(履歴書・作文の書類審査)、続いて第2次審査(グループ審査で台詞、リズム感、歌、特技)そして最終第3次審査(台詞審査、面談、その場で指示された演技審査)の内容を審査員に確認、審査員から追加審査の希望があれば、審査内容に組み込んで、他の審査員からの了解をもらい、審査内容を決定します。
それから審査員のスケジュールを調整して第2次審査(グループ審査)と3次審査(個人審査)のオーディション日を決めて、同時に審査会場を探して‥決めて行きます。
その後、採点方法(5段階評価、10段階評価、100点満点評価、合・否・保留など)を決めます。
それから、募集要項を作り、何人かでチェックした後、ホームページで配信したり、新聞や雑誌などで告知したり、劇団やプロダクション宛に送ったりします。
しばらくして、集まってきた応募書類の履歴書と課題の作文を一緒にまとめ、第一次審査のための、受験番号を付けてから、コピーと採点表を審査員に送付します。
応募総数が1500通位あると、応募書類は締め切りの前日と当日に1000通ほどが、
「ドカーン!」
とまとまって届くのが普通です。
これ実際、地獄です。
締切前日の午後3時ごろに、郵便屋さんがドバーッっと封書の束が300通位持ってきます。
‥残業
そして、締め切り当日の午後3時、昨日と同じ郵便屋さんが700通くらい持ってきます。
郵便屋さんは、決して、決して悪くはないのですが、思わず「早く持ってこいよ、あほんだらっ!」
心が勝手に叫びます。
‥徹夜

翌日、処理が終わるとすぐさま、審査員に送付して、3日間で審査してもらい、送り返してもらいます。
時々、締切日翌日に「合否教えてもらえませんかぁ?」とか言う問い合わせがあったりします。
「すみません、まだ審査中でして」とかなんとかテキトーに応対しています。
審査員から戻ってきた採点表をもとに、第一次合格者を確定し、合格者に通知して‥第2次試験の要領を送ります。
この第一次書類審査は、広い場所で応募書類をバーっと広げて、審査員全員で第一次書類審査の最終審査する場合もあります。
実は、これが裏事情としてはとても大切なことでして
応募者の中に、懇意にしているプロダクションの俳優や、よく知っている演出家や関係者の推薦文が添えてあったりする応募者、あるいは色々恩義のある人から頼まれた人を、不合格にするといけないので、みんなで確かめながら審査します。
ここめっちゃ忖度してます。
例えば誰かが「この人いらないよね」とか言って、応募書類をヒラヒラさせたりした時に、
「ちょっと待って、その人、来年の公演に出演する主役と同じ事務所だから、1次は通過させないと‥」
「あ、そう、じゃあ合格!」
‥忖度
第2次審査まで
1次合格者の人数は‥2次のグループ審査を1日で終わるのか、2日間にするのかで決まります。
第2次審査は朝10時から初めて、午後4時に終わって、それから6時まで2時間で合否を決めます。
ですから途中、昼休憩を1時間挟んで、審査そのものは5時間となります。
大体10人のグループを20分で審査し、その後10分で簡単な確認や打ち合わせをして、次の審査‥なので、大体1時間で2グループ、20人です。
したがって1次審査通過人数は1日で審査をする場合、100人前後になります。
応募総数が1500人だろうが、2000人だろうが、あるいは100人だろうが、100人が限界です。
2日間に分けるなら、200人は可能でしょうし、審査内容が簡単なセリフとリズム感程度で、
10人を10分で審査する「アンサンブル・オーディション」ならば、1時間で60人、1日5時間で300人は可能でだと思いますが「キャラクター・オーディション」は時間がかかります。
私が経験したオーディションは大体上記のような第1時審査を審査員が個人で予習してきた後、審査員全員で教室位の大きさの稽古場で、1800人の応募者を120人に絞り、第2次審査へ進みました。
ほとんどが1次試験で不合格ですが、逆に2次に残った人たちを、ゆっくり見るのにはどうしても100人前後が限界です。
1次審査合格者に合格通知を送ると、少し遅れて不合格通知を送りました。
それが終わると、第2次審査の準備に入ります。
第1次審査合格者の履歴書と作文に、新たな受験番号を付け、第2次審査用の採点用紙を作成します。
第2次審査当日
会場の入り口に「○○オーディション・審査会場」と書いた大きな紙、もしくは看板を立てます。
受験者の控え室を整え、椅子やテーブルなどセットし、受付の用意をします。
審査会場内も机や椅子を並べたり、審査員のケータリングを用意したり、昼食を用意したり‥。
受験者の受付や突然入る欠席の連絡を受けたり‥
そうやって第2次審査が始まります。
第2次審査は作品や求める役柄にもよりますが、10人1グループで「台詞のテスト、リズム感、簡単な歌、そして簡単な質問」で終わります。
ここでは主に役柄に合うキャラクターか? 舞台でも映画でも人間同士の共同作業ですので、人柄や礼儀がちゃんとしているか? 他人に不快感を与えるような感じではないか?などを中心に審査します。

台詞の上手い下手、リズム感や歌の上手い下手(ミュージカルの場合は別ですが)より、あくまでも全体の雰囲気や役に合うかどうか?
どちらかというとキャラクターとか他の俳優にない、何か特別なもを持っていないだろうか?
そう言うことを、審査員は必死で探します。
この審査で大体30人程度に絞られますが、不思議なことに上位10番目くらいまでは、審査員満場一致で決まります。
11番目から20番目あたりまでは、5人中4人、3人が合格と考えます。
最後の21番から30番あたりは、候補が18人くらいいて、審査員の1人とか2人が合格と考えます。
実は、審査に時間がかかるのはこの辺りです。
18人から10人に絞ります。
最後には多数決で、2人が合格を出した人にしますが、1人でも「どうしてもこの俳優をもう一度見たい」と言う審査員がいれば、合格とすることもあり、合格者が32名になるなどが起こります。
いよいよ最終審査
さて、いよいよ第3次審査、最終オーディションです。
第2次審査で30人程度に絞られます。
第3次の審査内容な長めのセリフ審査です。
200字程度の台詞、シェイクスピア、イプセン、井上ひさし、宮本研などの作家の戯曲の一節が課題として出されます。
これは2次審査合格の連絡と一緒に、台詞の抜粋が合格者に送られています。
それから課題曲の譜面(無い場合もあります)見せることのできる特技があればその披露となります。
特技は楽器演奏が多かったですが、審査項目の対象でない限りは、それほど合否に影響はありません。
私が関わった審査は特に台詞が重要視されました。
これは上手に台詞が言えるのか、と言うことより審査を担当する演出家が、そこで咄嗟に何らかの「課題」を出します。
例えば女性の応募者だとすると「その『ロミオとジュリエット』のバルコニーの場のセリフだけど、あなたはとても嫌いな男性に言い寄られていると言う状況で、台詞を返してください」
とか「これ以上ない怒りでやって見てください」
「もっと低い声が出ますか?それで相手を威嚇して見てください」
などの課題が咄嗟に出ます。
これをどの程度こなせるか?
これは課題ができるかできないかと言うより、挑戦する姿や演出家の指示が理解されているか?
そのような、課題に対する、懸命に頑張る姿勢を見ています。

そして最後の最後、合格者を決めることになりますが、本役の合格者1人に対し、この俳優は面白いと思う人がいた場合、別の役に付ける条件付き合格ことがありました。
最後に
様々な裏事情があるオーディションですが、実際に応募者を前にした、審査員たちは、必死になってその俳優の良いところ、面白い所を探そうとします。
これは、プロデューサーや演出家のある種の本能だと思いますが、オーディションの審査とは、応募者である俳優に、様々な課題を題して、それをやってもらう中で、その俳優の魅了を一生懸命に見つけようとしています。
その上で、合格し出演が決まると言うのは、たまたま探していた役に合うと言うだけで、俳優としての優劣ではありません。
むしろ、審査員の頭の中に残る俳優が何人かいます。
私の経験でも「田舎から出てきた村娘」のオーディションの時に、美人で台詞も抜群に上手い女優が応募してきました。
残念ながら、探しているキャラクターとは違うので、オーディションそのものには落ちましたが、審査員全員の頭の中に印象深く残り、その後、その演出家が別の舞台でキャスティングしました。
私の企画したオーディションでも応募してきた、面白い俳優が何人かいたのですが、残念ながらその時は、役のイメージが違うと採用されませんでした。
しかし、その後、別の作品に出て、評判となり超売れっ子になっていった俳優が何人もいました。
俳優としてあなたがオーディションを受けるのは、目先の合格不合格に一喜一憂せず、どっしりとあなたの魅力を見せつけるつもりで受けてください。
審査員たちは必死で、あなたの魅力を見つけようとしています。
中島豊
付録

オーディションは審査員も人間ですから、応募書類を見て実技や面接の前に「この俳優、ちょっと期待」とか
「この俳優、蜷川演出の舞台に出てるからかなりできるかな?」
あるいは「○○プロダクションの××さんからお願いされてたこの俳優、さあて、困ったな、今回はちょっと残念だったから‥断るのに、なんて、言い訳しようかな‥そうだ、演出家のせいにして、私は推したんだけどね」
とか言って誤魔化そう。
「この女優いいんだけど、すでに決まっているアノ女優と昔、同じ劇団だったみたいだな、なんでやめたんだ? 喧嘩? なんか面倒な事じゃないといいけどなぁ‥まあ、面談で聞いてみようかな」
などなど、色々とあるんですよね。
人間臭いのが‥。

