俳優になる為の進路として
中学や高校時代に、タレントに憧れ、やがて将来の具体的な進路としての俳優の道を考え、親や親戚、兄弟、教師あるいは恋人などからの反対を跳ね除け、最後まで諦めなかった人が、進むのが「専門学校の俳優コース」です。
芸術系の大学を目指すのも選択肢としてあって、実際に受験した人もいるかも知れませんが、残念ながら不合格だったり、学力的にちょっと無理かな?と諦めたり‥
そう日大芸術学部はそれなりに難しいのです。
それに、役者になるのに4年も大学にいたら、長すぎる気がするし、よく街でスカウトされたとか聞くけど、自分には現実離れした話に聞こえるし、そうなると「実践的で手っ取り早そうな専門学校」がいい気がして‥。
まあ、選択肢はいろいろあったでしょうが、兎にも角にも「夢を持って入学する」のが、俳優科のある芸術系専門学校なのです。
専門学校のメリット
演劇系の専門学校には、他の進路、例えば大学や劇団の養成所とは異なる、様々なメリットもあります。
まず、余程、怪しい学校でなければそれなりの施設や設備を持っています。
その分、授業料とか高いでしょうが、皆さんが卒業してプロの現場に行ったら、学校以上に立派で綺麗な施設がないことに驚くと思います。
薄暗い、倉庫のような稽古場で、冬は極寒で夏は灼熱の中、稽古をしているのがプロの現場です。
学校を決めるのであれば、ある程度、設備の整った所をお勧めいたします。
設備がボロくても、それ以上に魅力的な講師陣がいれば別ですが‥
もうひとつ、派手な講師陣を並べている学校は、そのほとんどが特別講師で1年か2年に1度講義に来るという状況です。
それでもメリットはあります。
プロ中のプロの特別講師は現場が忙しいので、常勤授業はできませが、様々なしがらみや断れない人からの依頼、何にも増して今時の若い俳優志望者に会ってみたい、そんな理由で特別講師の方も、楽しみにして学校に来ます。

ある種、これだけで学校に来る意味があります。
特別講師は現場の第一線で活躍している人がほとんどですので、この授業があるときは、どんなことがあっても出席してください。
リアル業界話しが聞けます。
それが色々と進路を考える事に役立ちます。
特別講師に関しては、学生の側から学校へ「あの人の話が聞きたい」とリクエストしてもいいと思います。
そういうのが可能にしてくれるのが、演劇の専門学校です。
もうひとつのメリットは、多くの仲間です
専門学校のリアル同級生たち
演劇専門学校に入学する時に、自分で明確な選択肢がなければ、なるべく多くの学生がいる所をお勧めします。
演劇の場合、多くの共演者やスタッフと仕事をしていきます
学生時代の実習も、学生数が極端に少ない学校ですと、自ずと実習演目に制限がかかります。
ある程度の学生数、少なくとも20名以上の学生がいれば、実習演目も近代古典から現代劇、或いはギリシャ劇など幅広い選択ができます。
そして、決して悪い意味ではなく専門学校の入学試験は、面接と簡単なペーパー試験、もしくは作文でほぼ合格です。
ということは、例えば高校ですと成績が上から下まで、ある程度同じような層の学生が集まっていますが、専門学校は実に様々な人が集まってきます。
大学を卒業している人、或いは数年社会人を経験してきた人、高校を中退してきた人、名門進学校から来た人、まさに玉石混合です。
私が大昔に入学した横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)も早慶を卒業してきた人や、工事現場の現場監督だった人、奥さんがいる人、そして超不良(ヤンキー)高校を卒業した人、中退した人、大学浪人生‥などなど様々でした。
まあ、上は慶應経済卒業から下は‥底無沼でした。
ですが、このゴチャゴチャが面白いですし、世の中出たら本当にいろんな人が一緒にいます。
優等生ばかりでもないし、その筋の方みたいなのばかりでもありません。
そういう意味で、専門学校は大学より面白いです。
同級生の中には、高校演劇やアマチュア演劇の経験者もいて、それなりに演技経験があったり、ほんの少し、人より演劇慣れしている人もいます。
中には「ベケット」「イヨネスコ」「つかこうへい」「野田秀樹」などなど、劇作家の作品を読んでいて、得意げに話す輩もいるでしょうが、気にすることはありません。

色々、教えてやるよ・・・・・一番最初にいなくなる輩です。
そんな経験や知識は、全くどうってことありません。
かえってそういう輩ほど、伸びないし、中途退学していくことが多かったです。
‥嫌われて‥
専門学校は学費がかかりますので、ある程度の家庭の子が多いのですが、俳優志望の学生の親の職業で多かったのが、なんと教師でした。
親の仕事を見て、何か思うことがあったのでしょうかねぇ‥
その次が家が商売をしている子、そして、まあごく普通のサラリーマン家庭の子でした。
とりあえず、世間的に見れば親不孝者でした。
演劇専門学校生の1日
学校によって、若干の違いはあるかもしれませんが、通常は朝8時30分とか、遅くても9時に1限目が始まります。
普通の学校と違うのは、座学、いわゆる教室での授業の割合が少なく、殆どが体育学校のような授業です。
「ダンス」「肉体訓練」「発声」「歌」「演技実習」が殆どで、時々「演劇概論」「演劇史」などがありますが、大体、朝から夕方の終業時間まで、日舞の授業の時などは浴衣ですが、後は一日中ジャージ姿です。
中にはめんどくさがって、Tシャツとデニムで授業に参加する人もいますが、まあ、教師からの印象は良くないです。
で、大体16時頃に学校が終わりますが、その後、1年生時はそのまま帰宅するか、仲間と連れ立って飲みに行く人たちと、アルバイトに行く人が殆どです。

専門学校2つ目で‥プロのアルバイター
稀に、お芝居や映画を見に行く人もいますが、少数派です。
こういう人は、芯から映画や舞台が好きな人です。
だからと言って、こういう人が必ずプロの俳優になれるかというと、それとは全く別のことです。
これが専門学校の1年生の1学期の生活です。
2学期になりますと、それまで「エチュード」という短い台詞劇の授業だったのが、それを元に発表会に向けての授業が入ってきます。
ステージやホールのある学校ですと、期末に学内での発表会があります。
この発表会はそのまま成績につながりますが、成績がいいとか悪いとかはあまり気にせず、とにかく一生懸命演じることです。
この時点では、ステージに立つ経験をするというだけで十分です。
演劇専門学校生2年目の挫折
演劇専門学校は、あらゆる夢や希望を持って入学してくる人ばかりですが、入学早々に退学していく人もそれなりにいます。
大半がタレント志望、歌手志望、お笑い芸人志望で、入学してみたはいいけれど、毎日毎日、ダンスや発声、肉体訓練と称した腹筋や柔軟、時々エチュードの演技実習で‥つまらなくて、そのうち授業に出なくなって、そうなると、同級生は少しずつ課題が進んでいくので、たまに授業に出ても「お客様」って感じで‥
発表会にも出ない‥出られなくなって‥いつしか、辞めてしまいます。
学校にもよりますが、1割から2割が1年生の夏休み過ぎに居なくなっています。
そして、その次が2年生になってしばらくして辞めます。
大きく分けて3つあります。
自分は俳優としての才能がないんじゃないか?
或いは、俳優にはなれないんじゃないか?
自問自答の末、元気がなくなって、ちょっと鬱っぽくなって‥
でも、それは仲間から「大丈夫か?」「最近、ちょっと落ち込んでないか?」とか言われたくて、そんな感じを出していることもありますが、とにかく急に将来が不安になって「やっぱりちゃんと給料がもらえる仕事をしよう」と辞めて、仕事を探すか余裕がある人は別の専門学校へ行ったり、すごい人は翌年に大学を受験したりして‥親からも「色々あったけど良かった良かった」と言ってもらって辞めていきます。
俳優の本当の才能なんて、誰にもわかりません。
プロの現場にいる俳優だって、自問自答しながら仕事をしています。

こういう状態になると本当になれません。
ですが、そのような不安を持ったり、悩みを持って、学校を退学する道を選ぶのなら、それがあなたの俳優としての限界ですから、それ以上、進まない方が良いと言うことです。
もう一つは、あまり例はありませんが、怪しいモデル事務所やタレント事務所のオーディションなど受けて、皆よりも早く「プロの道に進んだ」と思って辞めてしまいます。
それが本当にちゃんとした事務所ならいいのですが、大概が怪しくて「レッスン料」とか取られたり、どうかすると「怪しいビデオ」に出演させられたりしてしまいますので、そのような所へは絶対に勝手に行かないでください。
必ず、学校に相談することです。
最後は、発表会なり卒業公演での、自分の役に不満がある時です。
学校といえども、ある種、営利的なことを考えなければなりません。
ですから、正直言うと、先生から見て「面白い子」そしてある程度「美男、美女」が良い役に付きます。
そうして、見にきたプロダクションや劇団のマネージャーたちに「ここの学校の俳優の卵はおもしろい」とか「タレントとして売れそうな子がいるな」と思ってもらい、卒業後に所属させてもらい、将来売れれば、学校としても素晴らしい宣伝になります。
ですから、どうしてもそのようなキャスティングになります。
そこで、本当にチョイ役のチョイ役になった場合、もう完全にやる気無くして卒業前に辞めて、劇団やプロダクションの試験を受けて、そちらに進む人も出てきます。
卒業後のリアル進路
学校にもよりますが、卒業生か仮に100名だとすると、どこかの劇団の養成所に進むのが20名程度です。
学校が色々売り込んだり、卒業公演でそなりに目立って、プロダクションなどに入れそうなのが、5名から6名です。
学年によって違うでしょうが、卒業してからどこかの小劇場、小劇団に入る人も数人います。
学校が推薦したり、講師の関係でプロダクションや劇団に進むのが上に書いたように5名から6名で、あとは全て自力で劇団の養成所の試験を受けたり、劇団そのものの入団試験を受けたりするのです。
正直言って、自分からそれが出来ない学生がたくさんいます。
卒業する瞬間まで、あまり考えてなくて、実際どうして良いかわからないとか、なんだか怖くて出来ないとか、理由は様々でしょうが、ここで75%、良くて50%の学生が、そのまま失業します。
自分で行き先を探すのは、時間がかかります。
どこでも良いわけではありません。
少なくとも2年生になったら、1年かけて芝居を見たり、先輩を訪問したり、講師の先生を捕まえて話を聞いたり、オーディション情報の掴み方を学んだりと、卒業後の進路に向かって、活動をしていないと間に合いません。
いくら学校の成績が良くても、この世界は自分から動かなければダメです。
勿論、有名劇団の養成所をいくつか受験して、全滅という人も出てきます。
1年後に再受験するのか、別の養成所に行くのかなどを含めて、卒業時で半分以上の学生が行き場を失っているのが現実です。
演劇専門学校は卒業しても、なんらかの資格をもらえる訳ではありません。

明日から、何にも無いけど‥あれ?
ヤバくね?
卒業後の半年くらいは、仲間と会ったり、遅ればせながら小劇場を見たり、養成所の発表会を見たりして気持ちを切らさずにいるのですが、いつまでも仕事もしないで親の脛をかじっているニートになってるわけにはいかないと、アルバイトを始めたり、諦めて仕事を探して就職したりします。
水商売や運送業、警備会社などに多く進ますし、家業を継げればそのまま家業をつぐ人も出て来ます。
そうこうしているうちに1年が経つと、今度は順調に劇団の養成所に進んだように見えた人も、養成所内での審査があり、2年次の研修科などに進めない人が出てきます。
大手の劇団は養成所1年次に60人ほど居た生徒の内、次に進めるのが5人から6人です。
それ以外は、再び別の劇団の養成所に行ったり、小さな劇団に入ったり、諦めてしまったり様々です。
正直申し上げて、演劇専門学校を卒業して10年以内にプロの俳優としてお金がもらえるようになる人は、100人の内1人か2人です。
もしかしたら、卒業生3年分で1人の時もあります。
演劇専門学校生へのマジなアドバイス
演劇の専門学校を卒業して、演劇の世界に45年いた人間として、若い学生のあなたに大事なことを、ひとつ申し上げます。
100人卒業して、10年以内にプロになったのが1人か2人と申し上げました。
この2人は学校時代に特別に優等生とい訳ではありませんでしたが、ある特徴がありました。
それは、とても運が良い2人でした。
運がいいのも実力のうちと言いますが、実際に運がいいのは100人の卒業生、全員が強運の持ち主でした。
俳優になりたいと思っても、親や教師の反対、恋人の反対、あらゆる反対のプレッシャーを超えて、或いはかわして、演劇の専門学校に入学できたこと自体、強運の持ち主です。
その強運を信じて、直向きに俳優の修行を、人間を演じて人を感動させる匠として、勉強して修練を積んだ者が、俳優という道に進むことができるのです。
自分の運を信じ切った人間が、その運を伸ばして、俳優の道へ進んでいけます。
それができれば私が10年以内と申し上げたのは、それが20年以内ですと、5人位に増えるんです。
肝心なことは、ただひとつ「やめないこと」です。

辞めなければ、いつか必ず俳優として映画や舞台に出られることを信じて、精神も環境も俳優であり続けることが大事です。
肉体を鍛え、声を鍛え、姿勢を保ち、多くの戯曲を読み、ありとあらゆる状況での人間観察をし、それを表現者として、観る人にどうやって面白く伝えることができるのか‥研究し、人間を演じる匠を目指していれば、絶対に俳優になれます。
私は45年間、そんな俳優さんをいっぱい見てきました。
貧乏でも、明るく頑張って、何年も何年も小さな劇団で頑張って、頑張って‥ある日突然、その人の芝居がやたら面白くて、感動して‥そうしたら、すぐ大きな舞台やテレビ、映画で活躍し始めて、今では大ベテランといわれる俳優になった‥大勢見てきました。
続けることが、本当の意味での「運の強い人」で「才能のある人」です。
そして最大の障害は、自分自身だという事を分かって、それに打ち勝つのは「ひたすら自分は運がいい」ことを信じ切る力と、適切な俳優としての生活を目指すことです。
俳優志望の若い方達へ
「ご成功を祈ります」
中島豊